b 食と生活・認識マップ

生活のイメージマップ

ヘルスプロモーションのオタワ宣言によれば、健康は人々の生活の場から創造されます。

しかし私たちは忙しい毎日の中、
「自分らしい生活」とは何か、
改めて考える余裕がありません。

一歩立ち止まり、自身や周囲の人々の生活を、
改めて考えてみたらどうでしょうか。

生活の二次元マップによって、互いの生活に関する経験を分かち合い、学び始めてみませんか。





「心の健康と生活習慣に関する指導資料」 
指導資料からの出発、文部科学省編
2002年11月26日 


指導資料から出発し、子どもたちと共に、明日に向かうために 

守山正樹

1.今求められていること 


(1)指導資料に即して考え始める 

    かつては、子どもたちの姿が街の至るところに見かけられた。しかし少子高齢化が進み、世の中が便利になり、人々が時間に追われ始める中で、身近なはずの子どもたちの影が薄くなり、子どもたちの生活の様子や心の状態も、はっきりしなくなってきた。子どもと大人との間に距離が出来てしまったように見える。そうした状況下で「子どもたちを対象とした全国調査」が行われ、本指導資料が編纂された。本資料を第Ⅲ章まで読み進め、心の健康と生活習慣に関する子どもたちの統計的な実態に触れ、そこから導かれる指導事例の全貌が把握できたら、次は現実の授業の進め方を考えることになろう。指導事例をそっくり活用することも有り得る。指導事例が直接当てはまらない場合もあろうが、事例を組み合わせたり、教師が投げかける言葉を工夫したりすることで、授業の見通しを立てることは可能である。 

    しかし何事も万全という訳にはいかない。先の全国調査は1998年から企画され、実際の調査は2000年末になされた。調査後に編纂された本資料は2002年までの授業実践に拠っている。一方、本資料を参考に、心や生活の指導に取り組む現場では、新たな実践は2003年以降になる。この間、土曜日の休日化や携帯電話の急激な普及など、子どもの置かれた状況は大きく変貌している。本資料がいかに多くの指導事例を載せ得たにしても、将来の現場の状況まで見通すことは容易ではない。本資料を出発点とした上で、日々新たな、柔軟で個別的な対応が求められよう。では、どうしたらよいだろうか。 

(2)指導資料を置いた上で考え続ける 

    さて本資料を読み終えたら、いったん資料を置き、周囲を見回してみる。そこには誰がいるだろうか。もし、一人、二人、数人あるいは1クラスの子どもたちが近くに(あるいは目前に)いるのであれば、今度はその子どもたちに注意を向けてみる。本資料では、これまでの指導実践が分かりやすくまとめられていた。一方、目前には、現実の子どもたちがいる。彼らは、今現在、どのような生活習慣を生き、そこからどのような心を育てているのだろうか。全国調査時の調査票を活用して、新たに調査をするのも一つの行き方であろう。しかし身近なところにも、まだ子どもたちが居るのである。調査票は脇に置いた上で、いま一歩、目前の子どもたちに近づいたらどうだろうか。生活習慣や心の捉え方について、子どもたちに直接に話しかけたらどうだろうか。このようにして生活マップの考え方が生まれた。 

2.生活習慣に気づき、心の持ち方を考えてもらう方法(生活マップ)の開発 


[取り組みのねらい]  学校現場では、日々、新たな子どもたちとの出会いがある。どこ子も、その子なりの生活を持ち、その子なりの生活習慣を生き、その子なりの心を持っている。では、子どもたち一人ひとりとの出会いを大切にし、彼らの生活と心を学び続けるには、どうしたら良いだろうか。この問いに対する一つの答えが、本項で紹介する「生活マップ」の考え方である。 

[対象]  小学校3年生以上 

(1)生活マップの原理; 生活習慣に気づき考え始めてもらう道筋の概略 


    小学生に[生活習慣]という概念的な言葉で問いかけても、答えは返って来ない。彼らに理解できる言葉で問いかける必要がある。「いつもしていることは?」と問うと、途端に活発な返事が返って来た。 

    返事を黒板に書いていく。意見が出尽くしたと思われたら、ラベルに書き出す。数クラスでこの作業を行い、まとめを繰り返した結果、以下のような項目が得られた; 「夜眠る」、「朝食を食べる」、「お風呂にはいる」、「一人で遊ぶ」、「家の人と一緒に」、「歯をみがく」、「塾、稽古に行く」、「友だちと一緒」、「学校へ行く」、「テレビやゲームをする」、「おやつを食べる」、「勉強する」、「外で遊ぶ」、・・・。 


1.最初の問いかけ                    生活習慣って、何ですか? 

2.分かりやすい問いかけ        皆さんが、毎日していること、いつもしていることは何ですか? 

3.出てきた意見のラベル化    出て来た意見をラベルにします。 

4.紙の上で考える                   ラベルを用いた紙上での思考法*を応用し、生活をマップで表すことを試みます。 

          0)全体をながめる   1)並べて考える     2)拡げて考える   3)描いて考える 

*守山正樹、松原伸一;食のイメージ・マッピングによる栄養教育場面での思考と対話の支援、栄養学雑誌、54(1):47-57. 1996 


(2)生活マップの実際; 作業と思考の3段階 


    ラベルに表した生活習慣を台紙上で動かすことから、子どもたちは次の思考モードに入る。では「横に並べ、縦に拡げ」と動かすとき、何を基準としたらよいだろうか。動かした後、更に思考を表現/発展させるには、どうしたらよいだろうか。試行錯誤の結果、以下の「作業と思考の3基準」が得られた。 

    [並べて考える; 好きの程度] そのことをどのくらい好きか、は子どもたちの率直な気持ちが表れやすい「思考と表現の基準」の代表的なものである。個人の生活世界を見直す入り口として採用した。 

    [拡げて考える; 生活の頻度] そのこと(生活)をどのくらいの頻度で行うか、は、行為の規則性や不規則性を通して生活世界を考えていく際に、「思考と表現の基準」として不可欠のものである。 

    [描いて考える; 生活の表情]  表情は心の持ち方を反映する。簡単な表情であれば誰でもが描くことができる。生活と心を橋渡しする三番目の「思考と表現の基準」として、“表情”を採用した。 

0.考える方向性 

    紙上で考えるとき、考えやすい、表現しやすい方向性を三つ挙げるとすれば? 

1.並べて考える 

    [好きの程度] どちらの生活習慣がより好きか、好きでないか、ラベルを水平方向に並べて考える 

2.拡げて考える 

    [生活の頻度] それぞれの生活習慣は、いつもしていることか、あまりしないことか、ラベルを垂直方向に拡げて考える 

3.描いて考える 

    [生活の表情] ラベル展開後、各生活習慣を行う時の気分を思い出し、それに見合った顔を描く 


(3)生活マップから生まれる参加的な思考; 対話から生活習慣と心の関係を発見する 


 生活マップを作成した子どもたちは、自己の生活世界とそこでの心の状態に気づき始める。何となく毎日していることであり、当たり前のことであった個々人の生活世界が、マップ化によって、発見に満ちた学びの対象へと変化する。マップは作成した本人にとって興味深いだけでなく、周囲の友人にとっても興味深いものである。 子どもたちに交流する機会を提供できると、様々な友人のマップに触発されて、生活世界と心の持ち方に関し、参加的・相互的な学習が始まる。 

    参加的・相互的にマップを見る際、見方を工夫すると発見も多くなる。以下の表に示すのは見方の例である。マップの全体は、ラベルが上方や下方に偏る場合、階段状になる場合など多様なパターンをとる。マップの右上、左下、左上、右下など様々な場所に注意を向けると、新たな対話が生まれ発見が生まれる。表情にも注意を向けてみる。同じ生活習慣であっても、それを行うときの気分は人さまざまである。このことに気づくことから、自分や友人の心の持ち方に対し洞察が生まれ始める。 


1.マップの全体を見比べる 

2.マップの右上を見比べる         「大好きで、いつもしていること」 

3.マップの左下を見比べる        「好きじゃなくて、あまりしないこと」 

4.マップの左上、右下を見比べる    「好きじゃないが、いつもしていること」、「大好きだが、あまりしないこと」 

5.同じラベルに描かれた色々な顔の絵を見比べる 

3.生活マップから気づき始め、考え始める子どもたち 


 子どもたちが作る生活マップに同じものはない。どれが正しく、どれが間違っているか、といったこともない。どれもが、それを作った子どもの生活世界を反映している点で、極めて個性的なものである。 

 マップを作成する過程での“考える方向性”は個々には単純なものである。しかし三つの方向性を組み合わせる結果、子どもたちは自分の生活世界を分析的に考えることになる。 

    普段は想像しない水準まで、個人的な生活習慣の実際に思いを至らせ、その結果がマップになるため、途中の作業は楽しかったにしても、「出来上がったマップは自分だけの秘密にしておきたい」と思う子どももいるかもしれない。だからマップ作成に続く交流の過程では、ひとり一人の子どものペースに合わせることが大切である。マップを見せ合うことを強制してはならない。しかしマップ作成が落ち着いた和やかな雰囲気のもとで行われていれば、子どもたち同士の交流は自然に発生する。自分のマップを隣の子に見せてあげたり、隣の子のマップをのぞきこんで笑い声を上げたりする子が出始めたとき、それを抑える必要はない。穏やかに交流が始まり発展する過程を見守ることが大切である。 

     “自分の生活習慣をマップにする過程”、“友人のマップに触れる過程”で「何が起こるのか」を子どもたちに直接に問うことは意味がある。感じたこと、考えたこと、思いついたことなど、どんなことでも気楽に発言してもらうと、その中にその子らしい思考が読み取れる。思い浮かぶ印象は消えてしまいやすいため、忘れないように書きとめてもらうとよい。 

 機会を作ると、子どもたちは様々なことを書いてくれる。通常の学習後(体験や見学も含む)であれば、いわゆる“感想”が書くことの中心となろう。しかし生活マップ作成過程では、自分自身と他者について考え、かつ交流することを体験している。思考の途中経過はマップとして明示される。そのため、いわゆる感想とは質的に異なる記述がなされることが多い。“良く知っているはずの生活”、“当たり前のことで半ば自動化している日常”が新たな次元から照らし出され、そこに気づきが生まれる。 

(1) 小学生が生活マップから気づき考えること 


 小学生は生活マップ作成によって、何をどのように気づくだろうか。近くに小学生がいたら、生活マップをつくってもらい、たずねてみれば良い。“考える方向性”のうち最初の二つである「並べて考える」と「拡げて考える」とはグラフ作成作業と共通点を持つため、小学校2年生以下では要領を把握できない子どもも出てくる可能性がある。これまでの経験からすれば、対象者が小学校3年生以上であれば、まず問題なくマップ作成を行える。 

 Y小学校で3年生に生活マップを作ってもらい、気づいたことをたずねた結果を次頁の表に示す。後に示すZ中学校の場合と比較すれば分かることであるが、Y小学校の児童には、「ラベルの個別的な位置や内容;各ラベルに描かれた表情;友人ひとり一人のマップの特徴」など個々の出会いに、その都度、具体的な注意を向ける傾向が認められた。個々の出会いと気づきが重層する中で、自分の生活全体の状況に対しては、比較的ゆっくりと認識が進み始めるようである。 




-Y小学校3年X組の場合(2002年夏)- 

事例 
自分の生活と心に気づく 
友人の生活と心に触れて考える 

01 
自分の生活マップを見ていたら、自分の生活の様子が、わかりました。(ぼくは)学校へ行くのがすきだった、おやつを食べるのがふつう、本を読むのがあまり好きじゃない、一人であそぶのがきらい。自分の生活の中がわかってよかったです。 

A君は、じゅくに行ってんのに、あまりすきじゃないの所に、はってありました。しつもんをしたら、べん強がむずかしいからですと、言っていました。兄弟がいるのに、一人であそぶのがすきっていう人が多かったです。学校へ行くってラベルがふつうの所にあった人が多かったです。 

02 
(ぼくは)大好きが、多かった。いつもしているが、多かった。あさごはんがすきだった/おやつもすきだった/夜ねむるのもすきだった/べんきょうがきらいだった。自分の生活の中が、わかりました。 

Bさんと僕のと(生活マップが)、ぜんぜんちがった。Bさんのマップは、いつもしているのが、多いし、大好きが多かった。僕とみんなのマップは、ぜんぜんちがいました。顔がぜんぜんちがって、よく顔の様子が、しっかり書いていた。 

03 
夜寝るのがじぶんでもへん。ゲームじゃなくてテレビを見る/学校へ行くのもけっこうすき。本をよむあいだに、ねることがある/おやつは、だれかとあそんだときに、でる。夜ねるというより、昼ねの方が多い。 

家族は、やっぱり大切なんだな。生活マップは(ぼくのとみんなのが)ぜんぜんちがった。Cくんのべんきょうの目がおもしろい。Dさんの絵もおもしろい。みんなちがう生活だった。 

04 
(ラベルの並び方が)かいだんみたいになっている。すきな物がたくさんあって、すきな物がきらいの方に入ってしまったよ。あまりしないが一つもなくて、いつもしているとふつうが多い。なんか「いつもしている」「ふつう」「いつもしている」と続いている。ぼくは、あまりしないがあると思ったが、一つもなくてよかったです。あと、「いつもしている」が、すごく多かったです。あと、楽しいことがたくさんあったよ。 

Eさんは、前から本がすきだと思ってたが、Eさんは、本がきらいときいて、びっくりした。あとF君はゲームがすきだ。Gさんは、前からドラゴンクエストが、たくさんすすんでいるから、ゲームがすきだと思っていたら、きらいだったから、すごくびっくりした。ぼくは、こういうべん強が、大すきだから、早く進んだし、すごく楽しかったよ。あとみんなよく書けててうまかったよ。またこういうべん強をしたいし、女の子と、3人で、できたよ。 

05 
うまくわけられて、よかったです。すごーく楽しかったです。いちばんきらいは、本を読むです。いつもしていることは、すごく大すきです/あまりしないと、あまりすきじゃないです/あまり好きじゃないけど、いつもやっていることもある/大すきで、あまりしないことは、ないことに、気がつきました。ゲームをけっこうやってんのに、なんとなくあまりしたくないの所にはってありました。いつも一人で、あそんでいるのは、今きづきました。 

Hさんは、じゅくやけいこはあまりしないし、あまりすきじゃないことがわかりました。ゲームは、なぜおこっている「かお」か、わかりませんでした。Iさんのは、Jくんがせつめいして、Iさんは、絵がうまいと言っていました。Jくんは、Iさんがせつめいして、IさんのとJくんのは、ちがうといっていました。26人みんな、かくことや、カードの場所が、ぜんいんちがいました。たいがいの人が、ゲームをすきの所にはっていました。 

06 
(ぼくのマップには)はげ頭が2人いた。すきな事がおおかった。(右上は)ニコニコえがおばかりだった。(左下は)はげ頭になってる。(左上と右下は)ない、ない。あまりしないが、ぜんぜんなかった。自分がやっていることがもっとあるのに、ぜんぜんなかった。 

Kさんが本がすきじゃないなんて知りませんでした。すきそうに見えました。Lくんは、あまりしないが、ぜんぜんありませんでした。夜ねむるを、きらいだった。Mさんは日やけするのがきらいだ、という事がわかった。Nさんはゲームはすきだけど、目がわるくなるから、いやそうな目をしていた。 

07 
ぼくはきらいな事が少ないが、すきな事も少ない。(マップの四スミにくるラベルは)テレビゲーム/一人で遊ぶ/夜眠る/なし。すきな事がとても多く、きらいな事が少ない。 

ぼくのより、となりのOさんの方が、大すきなことがいっぱいありました。P君は、すきな事がぎゃくに少なくて、びっくりしました。またQくん、おやつがきらいなの、とも思いました。Pくんのべん強している目が、なぜか、はかせくん、みたいになっていて、おもしろいなぁと思いました。あとRくんのが、とってもすきな事がいっぱいあって、いいなぁ、と思いました。あと、Sさんのが「ハをみがく」のが本当に「ハ」がひかっているような気がしました。 

08 
本を読むとおもしろい/テレビやゲームは、たたかいとか、があるから楽しい/おふろは、のんびりできるから/べんきょうは楽しいから。ぼくは、だいすきなことがいっぱいあって、こまってしまいました。外であそぶは、あまりすきじゃないから、ちょっと…・・。 

となりのTさんは、ぼくのとぜんぜんちがいました。みんなはちゃんと、すききらいが、べつべつにきめていて、ぼくはすごいなぁって思いました。みんなはとてもあたまがいいと、ぼくは思っていて、しかも、いけんもいえて、「すごいすごい」と思いました。 

09 
おふろにはいるのがすきで、毎日やれてうれしい/きらいなことはあまりしないようにしている/きらいな事はあまりしていない/すきなのは、まあまあしている。同じくらいの(好きなラベル)がいっぱいあって、すきなのは、毎日やっている。 

Uくん、おふろには毎日入るんだね/ぼくは5日に1回くらいだよ/外であそぶのは、あまりすきじゃないんだね。Vくんが、本を読むのがすきなんて知らなかったです。(生活マップ作成は)おもしろかったので、またやりたいです。 

10 
(大好きで、いつもしている)1は、ラベルがないけど、「外であそぶ」が近い。(あまり好きじゃなく、あまりしない)2にもラベルがないけど、「おてつだい」と「本をよむ」が近い。(「夜ねむる」を好きじゃないけどいつもしている、に置いたのは)夜ねむるのが時かんのむだだと思ったから。4(大好きだけど、あまりしない、に置いたラベルを見て)友だちといっしょと家族といっしょが、すきだということがわかった。ぼくはあまり家族といっしょがないとか、いろいろわかった。いつもしていること思っていることが、あまりしていないことも、いろいろきづいた。 

Wくんは、いつもしているが多い。おやつは、よっぽどきらいなんだなぁー。Xさんは、すきなことと、きらいなことがあるんだなぁ。Yさんのは、すきなことが多い。Zくんはすきなことが多い。みんな、おてつだいとかは、「ムカッ」というかおをしていました。女子は、そんなにそんなかお(ムカッとした顔)は、していませんでした。 

11 
(マップの右上は)とても大すきで、やりたい事。(左下は)下の方にしゅう中している。(左上は)何もないけど、どうかな。(右下は)ここも(ラベルが)ないけど、たぶんない。自分の生活をふりかえってみると、いろいろな事があるんだな、と思いました。やりたくないものは、5こあって少ないなと、思いました。 

(となりの友だちは)いつもしていることが多くてよかった。あまりしたくないは、少しあったけど、ぼくと同じぐらい。みんな、せつめいがうまくて、ぼくは、うまくいえたかみんなに聞いてみよう。大きくなれば、もっとうまくなれるね。 

12 
家族といっしょがすきだった。友だちといっしょがすきだった。朝ごはんを食べるのがすきだった。一番きらいなのは、じゅく、けいこ。人のをちょっと見ると、ぜんぜんちがって、みんなちがうんだなと思いました。 

わたしがかんじた事は、となりの人がべんきょうをするのカードを後にはっていた事です。わたしは、まんなかぐらいなのに、わたしとちがう人がいるんだなと思いました。わたしのとぜんぜんちがいました。ちがうところの一つ目は、本を読むの所です。となりの人は、そこの絵にいねむりをしてる絵をかいていました。Aちゃんは、本読みがすきでした。たから本のカードにリドルフといっぱいアッテナという本の題名を書いていました。 


(2) 中学生が生活マップから気づき考えること 


 中学生は自己や友人の生活や心の状態を、どのように捉えているだろうか。身近に中学生がいれば、小学生の場合と同様に生活マップから対話を始められる。以下の表にはZ中学校での実践記録を示す。Z中学校の生徒はY小学校の児童と同様、マップ作成作業に強い関心を示すことが観察された。 

 マップ作成後の質問に対し、様々な答えが返ってきた。感想に留まらず、「自分や他者の物の見方/考え方」に具体的に触れる記述が多いのは、Y小学校の場合と同様である。一方、「個々のラベルの位置や内容;一枚一枚のラベルの表情;友人ひとり一人のマップの特徴」などに対する個別/個人的な言及は、Y小学生の場合よりも少ないと判断された。さらに特徴的なこととして、「みんな;人;ほとんどの人;私たち」 のような集合的な存在に対比させた上で「自分/私」を捉える傾向が、Z中学校の方に多く見受けられた。小学生から中学生へと発達が進む中で、「個別の出会いから、全体的な生活状況の把握に至る能力」が、中学生において、より明らかな形で発揮されていると考えられる。 


-Z中学校2年X組の場合(1999年秋)- 

事例 自分の生活と心に気づく 
友人の生活と心に触れて考える 

01 
自分が毎日やっていることや、時々やっていることを思いうかべながら、ならべた。ラベルをならべるとき、少しなやんでしまったけど、けっこう楽しかった。自分がいやなことは、いつもやっていることが多い。友達と遊ぶことは好きだけど、遊ぶ時間があまりない。あとで考えたらラベルの場所が変わりそう。好きなことでも、テレビを見るのはただ見ているだけだから真顔。朝や夜にすることは、けっこうねむい顔。 

あとで友達のマップを見ると、自分の意見が変わった。勉強は、つまらないけど、楽しい時もある。 

02 
自分の好きなこと、好きではないことは、実際はこんなふうに思ってたんだ、と改めて感じた。毎日の暮らしでは、どのように暮らしているのかとか、自分の好みがわかった。いつもしていること、あまりしないこと、それぞれ大きな差があったり、小さな差があった。毎日やっていることが好きだったりとか、大好きだったりとか、いろんなことに気がついた。楽しかったり、つかれがとれることが好きなんだと思った。 

友だちの顔の表情が笑えた。大好きなのは、うれしそうに、好きじゃないのは、きむずかしそうに見えた。自分の好きなのと同じところもあった。やっぱり、友だちと遊んだり、おふろに入ったり、テレビを見たり…というごらくが、私たちにとって楽しみであり、大好きなのだろう。 

03 
よく考えてみると、自分がこれをよくしてたり、してないとか、好きとか、きらいだとか、ちゃんと考えたことがなかったから、考えてみてこうなんだと思って、やってみて楽しかった。自分のこと、ちゃんと考えられた。楽しい。やる気でる。自分が好きな事している時の方が、楽しそうな顔をしている。 

やっぱみんな好きな事とかしているときの顔とか、人によってちがうし、人には人の考えがあって、人のかいているのを見ると、自分のとちがうから、より楽しい。 

04 
勉強系と私生活系が、やっているがきらいな方に集中している。遊び系はいつもやっているものと、いつもやっていないものがある。いやなことは、いつもやっているが、楽しいことはやっていない時があった。好きなことはだいたい笑った顔で、きらいなことは、いろんな顔があって、どれだけいやなのかで変わってくる。 

家族といるのがきらいな人がいた。みんないろいろだったが、ほとんどの人は、一番きらいなものが、勉強をする、学校へ行くなどだった。 

05 
ほとんどのラベルが、上の方にいっている。ラベルをならべるのが、少しむずかしかった。遊んだり楽しいことが上の方へ行っている。1番下の所でも、ふつうのところにいっている。かたまっているものは、かたまっていて、バラバラなところもたくさんある。 

友だちと遊んだりするのが、一番好きだという人が多かった。全体的にかたまっていない人もいた。ほとんどの人が、上の方にかたまっていた。一人で遊ぶのがすきじゃない人が多かった。みんな勉強するのが好きじゃないけど、けっこうやっている。 

06 
やはり勉強はきらい。どっちかというと、家族と話したりするのは、あんまりしていない。友達づきあいは、けっこうむずかしいから、一人のほうがけっこういい。おふろと歯をみがくは、塾よりちょっと前かな、と思った。学校は、部活があるときは、気合が入る。 

勉強は、みんな一番最後の人が多かった。おふろが好きな人が多かったけど、おふろなんて体をきれいにするだけなのに、なんでいいのか? 

07 
自分がそうしている時のイメージを浮かべた。ならべるのが、おもしろかった。あまり好きでないことは、ほとんどいつもしているのに、好きな方にいくにつれて、あまりやっていない。 

顔のひょうじょうを見て、みんな考えていることが自分と似ているな、と思った。だいたいきらいなことは、みんないっしょだった。好きじゃないことをしている時は、目が小さく、好きなことをしているときは、目が大きくかかれていた。きらいなことは大体みんな同じだった。 

08 
じゅくは、好きだけど行きたくないといつも思う。友達と遊ぶのは、大好きだけど、いつもは遊べない。家に帰っても犬しかいなくて、家族とは夜しかいっしょにいない。大好きなのは、5こもあった。一人で、のほほんとするのも、あまりきらいじゃないなぁ…。順番はつけにくい。 

やっぱり勉強はあまり好きじゃない人が多いなぁと思った。一人で遊ぶのは、音楽聞いたり、まんが読んだり、ざっし読んだりして、ひまな時はケッコウ楽しいかも。でもみんなきらいなのかなぁ? 

09 
「友だちと遊ぶ」と「学校へ行く」は、ほぼいっしょだけど、私にして「友だちと遊ぶ」はクラスの仲のいい子を思い浮かべたので、「学校へ行く」は他のクラスの子とかを思い浮かべ、「学校へ行く」を大好き。きらいでも毎日やっていることが多い。 

みんな(家族とか)関係してくることは好き。表じょうをいれたら、やっぱり好きなものは笑い顔になる。友達と少し表じょうはちがっていたけど、すごく感じがつたわってきてよかった。楽しい感じとか、いやな感じがつたわってくる。 

10 
1人で勉強するのは好きだけど、学校や塾に行くのは好きじゃない。私は、家にいて、ホッとする時間が好きなんじゃないか、と思った。 

私は朝おきるのがつらくて、学校に来るのが好きじゃないけど、友達はいろんな人としゃべったりできるから、学校にくるのが好き、といっていた。 

11 
大好きなことは、いつもやっていることばかりある。好きなことと好きじゃないのを決めるのは、たいへんだった。なやんだけど楽しかった。あまり好きじゃないと顔がわらってない。なんとなくいやな顔、好きなのはやっぱり楽しいときの顔。 

絵がみんないろいろなこと、かいてあって楽しい。やっぱりねるのは、みんな好きかな。勉強してる顔は、みんな、くせんしている。 

12 
こーゆーふうにやってみると、好きなものとか、キライなものとか、考えるのムズかしかった。「歯をみがく」ことが好きとかキライとか、どうつけたらいいか、わかんなかった。もう「朝起きたら、歯みがく」みたいになってるから。学校は、ちょー楽しいときと、そんなでもないときがあるから。どうしようか迷った。勉強はやっぱキライ。あたしって、ボーーーとしていることが、けっこうスキだってわかった。でも、トモダチとあそぶときは、もう!あそぶし。 

みんないろいろ。顔に絵もかいてあるから、それをやっているときの感じとかわかってよかった。けっこう楽しい。 

13 
ラベルをならべるのはむずかしかった。「学校へ行く」と「家族でいっしょ」がまよった。顔をかいた時、おもしろかった。いろんな顔がかけた。どんな顔をかくか、まよったところもあったけど、まよわなかったところもあった。 

「1人で遊ぶ」と「勉強する」が、みんなあまり好きじゃない方にあった。ねている時の顔が、みんなとにていた。自分があまり好きじゃないことと、大好きとかマップのならべ方がみんなとにていた。自分が好きじゃないことは、みんなも好きじゃないんだなって思った。 

14 
いつもの生活。いつもしていること。物ごとをやっているときのことを思い出してやった。楽しかった。あまり好きじゃないのは、全部ボーとしてて、いっしょの顔に見える。好きなことは、いろんな表じょうがある。 

ほかの人の絵を見て、人それぞれ思ってることがちがうな、と思った。生活もぜんぜんちがうことが、よくわかる。 

15 
お風呂に入るのと友達と遊ぶのと、どっちの方が好きか迷った。家族といっしょにいるのは、安心していいけれど、そういうきかいがこのごろないな、と思った。あまり好きではないことも、いつもしているものが多いなと思った[一人で遊ぶ以外]。 リラックスできるコトが好きなんだと思った[ねるとか、お風呂に入るの]。みんなといっしょにいるのが好きなんだと思った。一人ひとりでいるのはきらい! 

みんな、けっこう、友達と遊ぶのが好きなんだなと思った。「勉強する」を左側においている人が、けっこういた。みんなそれぞれちがう考えを持っているなと思った[個性がある]。 


(3) 目前の子どもたちと共に考え続けることの大切さ 


    本稿の結果から小中学生全般に通じる結論を出すのは尚早である。しかし目前に子どもたちが存在し、彼らと生活マップを通して対話できるなら、子どもたちの統計的実態を、日々子どもたち自身の思考と言葉で補い、検証し、そこからさらに発展することが可能となる。 

    本稿での生活マップによる交流から、「小学生と中学生の思考過程に差がある可能性」が示唆された。すなわちY小学校では「“特定の人”に対し、個別的/重層的に自分を位置づけて行く傾向」が、Z中学校では 「“みんな”と比較の上で、自分の位置づけを一般化した水準にまで近づける傾向」が認められた。先の調査報告書では、「心の健康と生活習慣の関連性が小学生で不明確である事実」が「小学生の生活習慣に対する保護者の密着・介入」の観点から説明されている。今後、「心の健康と生活習慣の相互関連性が“潜在性から顕在性”に移行する過程」に対してさらに解明を進める際に、本稿から示唆される“思考過程の差”は手がかりの一つとなろう。 

 21世紀初頭の現在が「子どもと大人との間に“距離”があり,子どもの生活や心が把握しにくい時代」であることは事実かもしれない。しかしそのような“距離”は、その気になれば対話の中で解消されよう。いったん開始された対話は、さらに次の対話を生み続ける。実際、本稿で生活マップを試行した二つのクラスでは、対話はその場限りのことに終わらず、他のクラスや親との関連にも影響を与えた。 

    子どもたちが“生きる力;感じる力;考える力;表現する力”を元来持っているからこそ、彼らに対する調査が信頼でき、彼らに対する授業計画/指導計画を作ることが出来る。子どもたちの心の健康状態と生活習慣に関連して、全国調査から現状を知り、それに基づく指導例を本資料から学ぶことは、今後の問題解決への出発点として意義深い。さらに本稿の実践から「子どもたちは自らの生活と心の状態をマップ上に再構成し、対話的/ネットワーク的に思考できる力を持っていること」、「その力は日々の授業でも、工夫次第で容易に再確認できること」の2点が明らかになった。明日に向かって、子どもたちと共に、指導資料の示す先へと一歩踏み出すための準備が、これで完了したわけである。
ą
monbu1.jpg
(169k)
Masaki Moriyama,
2010/02/04 18:58
ą
monbu2.jpg
(215k)
Masaki Moriyama,
2010/02/04 18:58
ą
monbu3.jpg
(262k)
Masaki Moriyama,
2010/02/04 18:58
ą
monbu4.jpg
(284k)
Masaki Moriyama,
2010/02/04 18:58
ą
Masaki Moriyama,
2010/02/04 18:58
ą
Masaki Moriyama,
2010/02/04 18:58
ą
Masaki Moriyama,
2010/02/04 18:58
ą
Masaki Moriyama,
2010/02/04 18:58