b 二次元イメージ展開法_日常の再構成

二次元イメージ展開法

   二次元イメージ展開法は、日々の生活から構成要素を取り出し、マップへと集約して表現する方法です。
    自分を振り返ったり、他の人を知るために、役立ちます。
    まとめと対話の過程で、様々な気づきが起こります。
    食を題材に1989年に開発され、以後 生活習慣から心の問題まで、様々な課題に適用されています。



二次元イメージ展開法の誕生

栄養学雑誌に掲載された開発論文です。 

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生活マップ

生活マップの考え方の入門書です。 

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二次元イメージ展開法の進化/発展


1.主要な食のイメージから、その人らしさを組み立てる

守山正樹 (臨床栄養108巻2号127頁、2006年)

►食のイメージを2次元に表現する

    食は日々の重要な行為であり、その繰り返しのなかで、人はその人らしい食のイメージを形成すると予想される。その全体像を捉え、分かりやすい形に表すことは可能だろうか。個々人の食のイメージは、それ自体がメッセージ性を持ち、そこから食をめぐる対話が育ち、新たな食の教育が導かれるのではないだろうか。そう考えた著者は長崎県N町での健康教室(1989-90)の折に、イメージ表現の検討を始めた。当初の方針を以下に示す;「各人の食生活を構成する要素(食品や料理)を取り出し、個々の要素を1枚ずつのラベルに表示し、ラベルを手作業で台紙上に配列展開し、当該対象者の食イメージをマップとして表す」。

    同教室を支えるスタッフと共にラベルを試作し、ラベルの枚数は8から12枚程度、内容は「和食的な要素(ご飯、味噌汁など)を主体に、洋食的な要素を加える」との設定に至った。教室の実施を通して配列の最適な手順を探し、「食の主観的な摂取頻度に対応した横軸上にラベルを並べる方法」を考案した;①横軸右端に摂取頻度の最も高いラベルを置く、②横軸左端に摂取頻度の最も低いラベルを置く、③左右端の間に残りのラベルを並べる。その後、「横軸と直交する縦軸を設定し、平面上に拡散して展開できれば、ラベルの混み具合が減ってマップが見やすくなる」との考案が生まれ、次の手順、④自分の体にとっての大切さに従って縦軸方向に展開する、が追加された。これらの結果、主観的な判断を示すXY軸に対し相対的に個々のラベルを位置づける“食のイメージ・マッピング(2次元イメージ展開法)”が誕生した。

►2次元イメージから拡がる対話

    当時と比べ現在は食生活多様化の一方、情報機器の進歩が著しい。座標面を台紙から表示スクリーンに置き換えれば、通常は口にしない食品や料理も含め、数十 数百の色鮮やかで精緻な食イメージを座標面上に自由に配置したグラフを瞬時に作成できる。しかしそうした表示法は、“対話を促進する”“個人の認識を学習 できる”などイメージマップの特性にはそぐわない。

    例えばすでに50個の食品や料理が表示されているスクリーン上では、特定イメージの削除/追加/位置変更は、グラフ表示法として当然の操作であろう。一方 マップの場合、イメージ相互の位置関係は、それ自体が対象者の食の個性を示している。最初に当該対象者が抱いている混沌とした食イメージから、例えば10 個程度のイメージを要素として取り出し、それらを総合的な形として位置づけるのがマップである。1個のイメージを動かすだけでも、全体に影響が現れる。イ メージマップは作成した本人や周囲の人々が、全体像を一瞬で把握できるほど単純で、同時に個性的であることに価値がある。個々人のマップはすべて異なる。 個々人のマップの違いが新鮮な驚きと発見につながり、そこから対話が生まれることが、これまでに繰り返し確認されている。

►文献 守山正樹、松原伸一.栄養学雑誌1996;54(1):47-57. 


図1; 食のイメージ・マッピング(2次元イメージ展開法)の手順


2.その人らしい食のイメージに、さらに一歩近づく

守山正樹 (臨床栄養108巻4号383頁、2006年)

    「ご飯、みそ汁、魚料理」等の食品名ラベルを配列展開し、食の個性を示す試みを前回紹介した。しかしこのラベルでは、食の特徴を十分に表わせない場合もあ る。洋食を好む対象者の場合、ご飯・みそ汁型のラベルは適合度が低い。異なる文化/食生活のもとで生まれ育った対象者の場合は、事前にラベルを用意するこ とさえ困難である。ではどうしたら良いだろうか。

►直接記入法によるイメージマップ

    1991年、筆者は米国イリノイ大学に滞在し、学生の食イメージを把握する機会に恵まれた。初めて出会う米国人に対し、既存のラベルは通用しない。新たに 米国人用ラベルを開発することもあり得るが、時間がかかる。そこで筆者は「あなたの食生活に欠かせない食べ物は何ですか?」と直接に問いかけ、食べ物名を 書き出してもらう方法を考案した。ラベルなしに食イメージの2次元展開を行おうとしたのである。記入用紙にはマス目と座標軸を印刷した。ラベルの時は 8~12枚程度を用いたが、書き込む時は思考操作が増えるため、簡潔な記入欄が求められる。試行錯誤の結果「横方向7品目/縦方向5段階展開」を採用し、 マス目は言葉に加えて略画も描ける大きさとした(図2、日本語版記入例)。

►直接記入マップから分ること

    直接記入マップは客観的な栄養状況の判定には使えない。一方、食の個性を把握する方法としては、ラベル法よりも強力である。得られる食イメージは、当人に も周囲の人々にも発見の多いものであり、対話と交流の出発点ともなる。ある中学校で同法を試みた際の事例(図2)によれば、Aさんはマップ作成後、自分の 食生活につき「洋風や和風やお菓子も全部混ざっていて、安定しないと思った;冬になってアイスを食べなくなった」と述べた。続く交流の後、「他の人のマッ プと自分のとは大きく違った;たとえば塩を書いていた人がいて、びっくりした」と述べた。Aさんと交流したB君のマップは「ご飯、ポカリスエット、肉、 卵、野菜サラダ、フルーツ、塩」を取り上げていた。こうした交流を通し、生徒たちは共感したり驚いたりを繰り返しながら、食に関する自他の考えを学んで いった。

    既に食への客観的視点を形成している専門家の場合、直接記入マップから何が分かるだろうか。ある栄養士の集まりでマップを紹介したところ、C氏は「たまね ぎ、ご飯、かしわもも、納豆、魚、すし酢、豆腐」を配列展開した後、「かしわは愛犬が好き、納豆は長男が好き、主人と娘はお魚が好き、自分のことは後回し になったが、酢の物が好き」と述べた。年齢の若いD氏は「パン、コーヒー、野菜サラダ、プリン、アジのフライ、はっさく、もずく」とした後、「あ~っ、私 の食習慣って、いわゆる現代っ子なんだ!」と述べた。専門性の有無に関わらず、食に関して、本音に近く、参加的な問題提起を行えるのが、同マップの主要な 機能だと言える。

►文献

    守山正樹、健康教育の人間情報学を目指して、健康教育大要、ライフ・サイエンス・センター、pp.284-306、1998.

    Moriyama, M & Harnisch, DL. Use of Visual Symbols to Promote Communication Between Health Care Providers and Receivers, AERA Annual Meeting, 1992, pp.1-32. 

図2.直接記入法による食のイメージ・マッピング; 中学1年生Aさんの事例


3.アメリカ人学生の食傾向を読み解く

守山正樹 (臨床栄養108巻7号847頁、2006年)

    前回は著者が米国滞在中に考案したイメージマップを紹介した。同日本語版は糖尿病予防の働きかけ場面でも使われている。では英語版はどう展開しただろうか。

►イメージマップの教材化

    1991年10月、開発直後の直接記入マップ用紙を用い、米国イリノイ大生97名に各自の食生活を表現してもらった。初めて接する米国人の食は、著者がそれまで2次元イメージ展開法を通して接してきた日本人の食とは異なり、関心を持った。一人のマップを見ただけでは、「日本人とやや異なる」程度の印象に留まるが、二人・三人と継続して見ていくと、米国人に共通する食の特徴が浮かび上がってくる。

    ではマップを教材と位置づけ、マップを通して、他国の住民など普段は直接に出会う機会が無い人々の食に学び、食への洞察を深めることは可能だろうか?米国人学生のマップを日本人学生が学ぶ状況を想定したとき、食品名が英語で手書きされた原マップの解読を容易にすることがまず求められた。個人差のある筆記体の解読は困難を伴い、文字が分っても、聞きなれない食品の場合はそこからのイメージ化が進まない。そこでマップに記された食品名を集積し、米国滞在中に出会った人々の助けを得て、食品名に対応する略画を開発した。図は手書きされた原マップに略画を加えた一例である。

►米国人の食イメージを学習する

    帰国後に著者は、日本の学生に米国人の食イメージを学習してもらう試みを始めた。長崎のK短大専攻科(女子70名)から協力が得られた。K短大生がイリノイ大生97名のマップを授業中に全て読み取ろうとすると、時間が足りない。そこで97枚中、記入者が女性であるマップをランダムに25枚抽出し、1頁当り5枚のマップを掲載した全5頁からなるイリノイ大生マップ集を作成した。1994年6月の授業でK短大生は授業の前半にマップ集を学習した(直前の授業で学生は自他のマップを比較して印象を記述する演習を行い、食イメージの特徴を短時間で把握できる段階に至っていた。)

    同授業の後半、K短大生はマップ集の読み取りから分ったことを自由記述した。K短大生の目に米国人学生の食がどう映ったか、学生の記述から抜粋して示す;「日本人は穀類をコメ/パン的に捉えるが、米国人はライス/パスタ/シリアル等の穀類加工品名で細かく区別する」、「日本人は菓子・ジュース・ファーストフードを間食にすることが多いが、米国人はそれも食事に含める」、「日本人は魚を料理名や調理法で区別するが、米国人は区別しない」、「日本人は主食が明らかだが、米国人は主食が明らかでない」、「米国人の主食は強いて言えば、パン・シリアル・パスタ・ベーグル・肉など多様である」、「日本人は加工品を好まず素材にこだわるが、米国人は手早く手軽に!を目指している」、等々。

    米国滞在経験の無いK短大生が計25枚のマップの学習から帰納的に推論した“日米の食イメージの特徴”は、その後に残念ながら検証の機会を経ないまま、現在に至ってしまった。しかし時代の急激な流れに押されるように食イメージも変化を続ける中、折々に立ち止まり、人々の食イメージの具体を検証し続けるのは重要な仕事であろう。イメージマップはその手がかりを提供するものと言える。

►文献

    守山正樹、健康日本21にどう取り組むか?、月刊糖尿病ライフ「さかえ」2003;43(4):5-9.

    Moriyama, M & Harnisch, DL. Use of Visual Symbols to Promote Communication Between Health Care Providers and Receivers, AERA Annual Meeting, 1992, pp.1-32.

図3.直接記入法による食のイメージ・マッピング; 米国イリノイ大生A氏の事例


4.食から生活へとイメージの対象を広げる

守山正樹 (臨床栄養109巻2号143頁、2006年)

    食のマップを介し、実際に人と交流すると、マップ上の特定の食品や食材から始まる対話は、「その食べ方、準備の仕方、購入先、料理方法、料理を含む家事の 分担、料理や買物を含む時間の使い方」など、いつの間にか食の範囲を超え、生活全般へと拡がっていく。では生活を表す言葉を最初からキーワードに採用すれ ば、マップから、より直接的に生活を振り返ることができるかもしれない。そこで著者は食から生活へと視点を移し、生活中の行動に関連したキーワード(行動 キーワード)を用いて、N町での健康教室二年目(1990)から食のマップに加えた新たなマップ作りを始めた。生活マップの試みの発端である。

►生活をイメージマップに表す

    生活は食をも含む広く多様な概念である。「食事する、外出する、夜眠る」等々の多様な行動キーワードを位置づける座標軸も、多い:少ない、好き:嫌い、 快:不快、大切:大切でない、など多様なものが考えられる。2次元イメージ展開法は食のラベルをXYの座標軸に対して位置づけることから出発したが、座標 が2軸だと表現の幅が限定される。そこで著者が1980年代に得た手書き顔グラフの知見を応用し、キーワードを配置するマス目に、行動時の表情を描き込む ことにした。顔の表情は「快:不快」や「満足:不満足」など複数次元の情報を表わせるため、基本のXY軸に表情を加えた生活マップは、多次元的位置づけを 可能にする。図の例ではX軸を「行動を好む程度→あまり好きじゃない:大好き」、Y軸を「行動の頻度→あまりしない:いつもする」とした。女性の生活を キーワードに反映させた生活マップを養護教諭研修会で紹介した際、Aさんは「ショッピング、夜眠る、本を読む、お風呂、携帯電話、友人と過ごす、スポー ツ」を展開後(図)、「好きな行動の表情が笑っていない,気づかない所で私はストレスを貯めているのかも・・」と述べた。Bさんは「テレビ、化粧する、仕 事する、家族と一緒、・・」を展開後、「みんな化粧するはずなのに、マップに化粧の項目があったのは自分だけだった・・」と述べた。一方Cさんは「掃除洗 濯、育児、家族と一緒、友人と一緒、・・」を展開し、A・Bさんと話した後、「年齢や家庭環境により行動を選ぶ時点から違いがある!」と驚きを述べた。 マップを介して自他の生活の見直しが始まる様子が伺える。

►親子と教師が使える生活マップ

    「外で遊ぶ、勉強する、テレビやゲーム、学校に行く、塾に行く、家族といっしょ、・・」を行動キーワードとして東京のD小学校と静岡のE中学校で試みた児 童生徒版の生活マップは、文部科学省による「実践事例集-心の健康と生活習慣に関する指導」に採用された。D小学校では母親も生活マップを試みている。親 と子と教師とが、各自の立場から互いの生活と食を振り返ることは、食育の原点であり、今後の展開が期待される。

►参考文献

1)文部科学省

 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/15/12/03120103/009.pdf

 http://211.120.54.153/b_menu/houdou/15/12/03120103/019.pdf

2)Moriyama M, et al. Community People's Preference of Hand Drawn Face Graph as a Health Informing Device. Tohoku J.Exp.Med. 1990; 160:37-46.

図4.直接記入法による生活マップ;養護教諭Aさんの事例


5.生活マップの3次元化;触知生活マップの試み

守山正樹 (臨床栄養109巻5号611頁、2006年)

    これまで紹介したマップは、印刷された座標枠にラベルを配列したり、書き込んだりすることにより、食を含む生活の全体像を、平面的な図に表わす視覚的な手法であった。しかし人は、視覚の他に聴覚・触覚・嗅覚・味覚など多くの感覚を用いて生活している。では生活を振り返る際に、視覚以外の感覚も活用したらどうだろうか。試行錯誤の結果、触覚によるマップが生まれた1)。

►手で触れて考える生活マップ

    触覚の活用に至った背景には、著者が10年以上継続している視覚障害体験実習がある2)。同実習ではアイマスクを装着した対象者が、生活の様々な局面に関連して“視覚の喪失”と共に“視覚以外の感覚が拓かれ研ぎ澄まされる過程”を擬似体験する。実際の視覚障害者も助言者として参加し、当事者の立場を学生に伝えている。この実習で参加者が各自の立場から“生活”をどのように捉えるかは、重要なテーマである。しかしこれまでの生活マップは視覚喪失下での作成が困難であった。

    人は誰でもが、手でサッと触れるだけで、身の回りの品物の殆どを瞬時に識別できる能力(Haptic Glance)を持っている。そこで“生活行動に関連したキーワード”を“触知できる日常的な物品”に置き換えたマップを開発した。対象者はまず手で物品に触れてその物品名(たとえばスプーン)を思い浮かべると共に、関連する生活行動(たとえば食事する)をイメージする。同様にして複数の物品に触れ、複数の生活行動をイメージし、さらにそれら物品の座標軸上での配列展開を通して、対象者は触覚的に生活を振り返る。図の例における物品と行動の対応を以下に示す; a イヤーフォン→音楽を聞く、b 本の一部→本を読む、c ゴルフボール→スポーツをする、d サンダルの先端部→外出する、e スプーンの先→食事する、f 百円玉→買い物する、g シャンプーの注ぎ口→入浴する、h 洗濯バサミ→洗濯する。

►D氏の触知生活マップ

    図は実習の際にD氏(全盲)が作成した触知生活マップである。作成したマップをさらに何回か手で触れて再確認したD氏は、「私はよく行っていることほど楽しいと思っている」と述べた。さらにD氏は隣席で同時に作業を行なったE氏(ロービジョン)のマップに触れて、「E氏と私はスポーツの位置づけが異なる」と述べた。D・E氏と共にマップを作成した学生たちは、視覚障害の有無を意識せずに、マップを介してD・E氏と健康な生活の多様性について語り合った。

    生活マップの作成において“視覚の使用”という制約が外れたことは、“対話・参加的に対象者の現状を知る試み”のバリアフリー化を意味する。触覚を活用して考え表現することは、視覚障害者だけでなく晴眼者にも意味あることであろう。日常生活で手に触れるものから、健康のどのような側面に、どのような参加的問題提起が出来るのか、新たな課題が生まれている。

►参考文献

1)守山正樹、2005. 登録実用新案第3117381号、内省思考支援用具、特許電子図書館 

    http://www.ipdl.ncipi.go.jp/homepg.ipdl

2)週刊医学界新聞、2005. 見えないことで見えてくる、福岡大学医学部社会医学実習レポート

    http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2005dir/n2654dir/n2654_06.htm

図5.触知生活マップ; 全盲のD氏による事例 


6.座標軸のないマップから自分と世界を考える試み

守山正樹 (臨床栄養109巻7号835頁、2006年)

    これまでは食や生活に関する個人のイメージ/認識を、XY座標によるマップに表す方法を紹介してきた。座標軸は発想を導くために有用であるが、発想に制限を加えることもある。では座標軸に頼らずに思考を発展させたらどうだろうか。

►Wifyの誕生

    1997年当時、著者は子どもの環境認識に関心を持ち、それをマップに表すことを始めた。当初考えたのは、①環境を日常生活・地域・世界と3次元に分け、②次元ごとに数個の「無くなったら困る大切な事項」をキーワードとして取り出し、③次元別にキーワードからマップを作成する方法、である。3つのマップを併記する記入用紙を作り、長崎で調査を始めた。このようなとき、中国の小学生の環境認識を調査する機会が訪れた。そこで用紙の中国語版を試作したが、日本でも相当な時間がかかる3マップ方式を中国で行なう場合、ベテラン通訳の援助を得たとしても、説明だけで1時間以上かかると予想された。そこで記入用紙の単純化に取り組んだ。キーワードの展開を取りやめることで各マップの縦軸を省略し、キーワードの順序付けを省略することでマップの横軸をも省略し、キーワードを書き込む記入欄だけが残った(図)。この用紙を用いる場合、対象者は3つの次元で順次イメージ化を行った後、「あなたにとってなくなったら困る大切なことは何ですか」との問いに答えることになる。英語なら「What is important for you?」となる。各単語の頭文字よりWifyと命名した1)。

►北京での発見

    1998年11月、北京市の小学校を訪問し、中国語版Wifyと通訳の助けを借りて、小学生に直接に環境認識を質問した。得られた回答の一例(A君の記入用紙)を図に示す。A君はWify1として「水、食物、衣服、登校、睡眠(和訳)」を挙げている。このとき隣のBさんはWify1として「美しい生活環境、衣服、食べ物、住宅、行動、用具、睡眠、良い教育、良い治安、両親の愛情、友たちとの付き合い(和訳)」を挙げた。著者にとっての新発見は、小学生が互いのWifyの異なることに強い関心を持ち、各学級でWifyを介して楽しそうに意見交換を始めたことである。これ出発点となり、以後Wifyは環境認識の調査法というより、むしろ「食や健康や環境に関して自分らしさを表現し、交流する方法」として、発展を始めた。韓国語版も提案され2)、健康づくりの国際化に寄与しつつある。

►今後のヘルスプロモーション

    マップもWifyも「個々人の多様な食や生活に関連する認識/イメージを具体的に知りたい」との願いから生まれた。相手を知ることは、自分を知ることでもある。その二つの知る過程の相互作用から対話が生まれ、「健康をともに語る場」が形成される。食から出発したその語る場は(スポット1,2)、食に留まらず生活全体へと拡がり(スポット4)、日本以外の人々の食と生活をも包み込み(スポット3)、さらに感覚障碍をも乗り越えて(スポット5)、発展を続けることが示唆された。「毎日の生活の場、人々が学び/働き/遊び/愛する場で、人々によって健康が創造され生きられる」とするオタワ宣言3)の世界は、これで私たちの日常になったと言える。

►文献

    1) Moriyama M, et al. Tohoku J. Exp. Med. 2001; 193(2): 141-151.

    2) Eun Woo Nam、他.日本健康教育学会誌 2006; 14: 印刷中

    3) WHO. 1986. Ottawa charter for health promotion. Switzerland, 1986p02j-Seikatsu-Map-Nyumon.pdf

図6.Wifyの中国語版; 北京市の小学生A君の事例 

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