c 高校授業

生と性について生徒と共に話し、心と考えを育てる試み

守山正樹.生と性について生徒と共に話し、心と考えを育てる試み~参加型健康教育の取り組みを通して~.リレーション; 健康教育推進事業(性と心の健康相談)実践例集、福岡県教育委員会、45-52頁、2005年2月

Ⅰ はじめに

高校生の社会問題として、性や心に関する事項が取り上げられることがしばしばある。このような現状を考えると、本事業で、性や心に関して何らかの危険(リスク)に遭遇する可能性が高い対象者に対し、リスクを下げるために、講演などを通して情報やスキルを提供することはとても重要である。また、実際にそのような危険に遭遇しつつあり、問題が身近になっている対象者については、直接に相談に乗ることが求められている。

しかし、「リスク・危険」という側面を取り上げ、危機管理の方策として、講演や相談を行うことは、性教育/健康教育の一側面に留まる。私たちが、男性/女性といった属性を持ち、両方の性が存在することで人間生活が営まれ、人類という種が栄えているのは、素晴らしいことであり、新たな価値、新たな文化、そして未来を拓せる次世代を生み出す源になっているのが、性である。このような性のプラスの側面に目を向けるならば、性教育は、典型的な健康教育の一つと捉えられる。健康についても、危機管理の大切さが言われ、リスクに対応した健康教育が行われる一方で、健康の持つ意味を問い続ける試みが続いている。たとえばWHOを舞台に行われたSpirituality(精神性、霊性)を健康の定義に含めるか否かの論争は、記憶に新しい。 

健康にも教育にも心にも共通するのは、“育てる”という作業の重要性であろう。ヘルスプロモーション(健康増進、あるいは健康推進)の考え方を明確にしたオタワ宣言の中で、健康とは何かを述べた部分に、以下のような興味深い表現がある;

Health is created and lived by people within the settings of their everyday life; where they learn, work, play and love.
すなわち、毎日をそこで生きる人々によって、健康が創造され、健康が生きられる。そして、健康の源である「生きる」という行為は、「学ぶ」、「働く」、「遊ぶ」、「愛する」という行為から成り立っている。 

このように、生活の中から健康が育つ、という基盤があってこそ、人は生きることができ、そこに新たな知識やスキルが加わることで、リスクにも的確に対応できる。では、この21世紀において、「生きること」、「育つこと」、そして「心」に焦点を当てた健康教育あるいは性教育は、どのようなものになるだろうか。一つだけ言えることは、20世紀までは有効であった道徳教育や純潔教育のように、特定の価値を教え込むような教育を、現代の若者は受け付けなくなって来ているという事実である。では最初から彼らの自主性に任せて、自由に選んでもらえばよいのだろうか。彼らの自主性を信頼することは大切だが、彼らが自由な状況にあるかというと、そうとも言い切れない。一面では、自分自身や周囲の状況に囚われ、将来への夢や希望を抱きにくくなっているという現実もある。彼らの自主性を信頼した上で、それがさらに育つことを待つこと、援助することが大切になってくる。

著者は、健康/生活/環境に関連して、そこにいる人々に、自分自身や周囲の状況を振り返ってもらい、健康/生活/環境の意味を再発見してもらう対話的方法の研究を行っている。今回は、この実践事例集で、問題提起の場をいただいたことをきっかけに、一般の高校生を対象に参加的な問題提起を行ない、高校生自身に彼らが感じ考えていることを表現してもらい、彼らが求めていることを語ってもらった。

具体的な実践としては、著者が開発した方法Wifyを用い、2004年11月18日に、S高校1年のある学級(生徒数40名)に対して、性教育に関する問題提起を行った。Wifyの実施に当たっては、以下の5方針を採用した。


(1)すぐに、性に関する事柄を持ち出すのではなく、“何を大切に生きているか”という基本的なところから問題提起を始める、
(2)生徒たちに、「生きること」および「性/ジェンダー」の双方を、関連させて考えてもらう、
(3)こちらの「性/ジェンダーに関する見解」を、生徒たちに教えるのではなく、生徒たちの「性・ジェンダーに関する見解」を聞き出す、
(4)個々の生徒がまず1人で考えた後、他の生徒と交流し、さらにその交流がクラス全体に広がることを支援する、
(5)すべての過程を1校時(45~50分)以内に終了する。

以上の方針を元に、40名の生徒全員について、彼らが考えることをまず記録シートに書いてもらった後、そのシートを元に交流してもらった。何れの生徒の記述も考えさせる内容を持っていたが、その中から男子生徒8名(M1~M8)、女子生徒7名(F1~F7)の記述を選んで、以下に示す。



Ⅱ 生活に関する問いかけ

1 生活の意味を問う 

『Wify1; あなたの朝起きてから夜寝るまでの1日の中で、無くなったら困る大切なこと/ものは何ですか?』 

健康の出発点である毎日の生活を、朝から夜まで思い出してもらった後に、この質問を問いかけた。後で感想を見ると、殆どの生徒にとって、このような問いかけに答えるのは、初めての経験だったようである。「この問いかけに正解はない」、「何を答えてもよい」、「隣の人の答を参考にしてもよいが、それで自分はどうか、と考えて欲しい」と補足した。


◆男子8名の答え
M1;「S高校、剣道、本、お菓子、携帯」
M2;「水、食事、服、家族、友人」
M3;「食料、電車、定期、服、靴、友達、布団、音楽、風呂、トイレ、PC、父、母、紙、シャーペン」
M4;「お金、学校、家庭、部活、クラスメート」
M5;「自分の体、食べ物、めがね、ラケット、服」
M6;「自分、友人、信頼、期待、時間、音楽、上野」
M7;「昼休み、ケータイ、部活、夕飯、お金」
M8;「音、衣、食、住、知人」


◆女子7名の答え
F1;「ご飯、ベッド、ケータイ、音楽、家族」
F2;「食事、友達、家族、学校、部活」
F3;「学校、薬、ご飯、家族、自転車」
F4;「睡眠時間、食事、お風呂、学校、パソコン、ケータイ」
F5;「ごはん、お菓子、塾、S高校、家、携帯電話、○△郎(カレシ)」
F6;「朝ごはん、家族、コンタクト、音楽、携帯」
F7;「自分の部屋、携帯電話、S高校、バトミントン、洋服」


性や健康について問題提起をする前に、生徒の生活観を把握しておくことは重要である。「ごはん」、「ケータイ」など、個別の単語だけだと、生徒の印象は偶然的/断片的なものに留まる。しかし最低5個程度、無くなったら困る大切なことが挙げられてくると、それらから生徒の生活が大体どのようなものか、そのイメージができ始める。


2 地域の意味を問う 


『Wify2; あなたの家、学校、その他普段よく行く場所、そしてあなたが生活している地域を考えたとき、無くなったら困る大切なこと/ものは何ですか?』 


生徒が暮らし、学んでいる地域は、生徒の生活の大切な部分を占めている。地域は様々な出会いを通して、生徒の社会的な発育/発達を支えている。一方、生徒が性や健康に関連して、何らかの危険に出会うのも、地域である場合が多い。生徒の挙げた言葉を読んでいくと、生徒の地域とのつながりが、どの範囲までどのように形成されているのかが、見え始める。


◆男子8名の答え
M1;「友人、家族、剣道、B電器、夜、自転車」
M2;「校舎、友人、大人、勉強道具、服」
M3;「人、道、海、金、空、友達、空気、電車、定期、いろんな店」
M4;「家庭、友達、道、電気、食料」
M5;「家、学校、食べ物」
M6;「橋、太陽、月、学校、横断歩道」
M7;「教室、人と人とのつながり、ベッド、部屋、トイレ」
M8;「音、衣、食、住、知人」


◆女子7名の答え
F1;「H小学校、H中学校、スーパー」
F2;「家、学校、部室とテニスコート、家族、友達」
F3;「空、雲、道、風、太陽、雨」
F4;「友達、お金、漫画、服、言葉」
F5;「交通機関、コンビニ、教室、風、自分の居場所」
F6;「地下鉄、部室、E予備校、警固公園(イルミネーションがすごくきれい!)、友達」
F7;「自転車、時間、制服、お金、歌」


3 世界の意味を問う 


『Wify3; 自分が現在いる場所から広く世界全体まで考えたときに、なくなったら困る。大切なことは何ですか?』 


現代はグローバリゼーションの時代だと言われる。私たちはメディアやインターネットなどを通して、世界中の情報を知りうる時代に生きている。その中で、生徒は、何を大切に生きているのだろうか。S高校1年A組の教室から、福岡市、福岡県、九州、南日本、日本の他の地域、韓国や中国も含めた東アジア、・・・とイメージを拡げ、地球全体まで視野に入れてもらった後、改めて何が大切かを問いかけてみた。少子化、結婚しない若者の増加、就業しない若者の増加、エイズの流行、売春/買春などの状況も、我が国だけで問題となっているのではない。性と健康を考えるとき、このように、世界観を組み込んだ問題提起も欠くことができない。


◆男子8名の答え
M1;「人と人とのつながり、気候、文化、法律、海」
M2;「水、食事、家族、友人」
M3;「統治者、異国文化、人、海、空気、金」
M4;「自然、家庭、資源、友達、食料」
M5;「食べ物」
M6;「平和、海、協力、指導者、インターネット」
M7;「金、食糧、平和、オゾン層」
M8;「音、衣、食、住、知人」


◆女子7名の答え
F1;「日本、福岡、命」
F2;「福岡県、佐賀県、日本、ニュージーランド」
F3;「国連、動物、植物、自然、時間」
F4;「移動手段、食料」
F5;「平和、強い経済力、愛」
F6;「海、友達、木、空気、音楽」
F7;「家、食べ物、平和、家族、友達」


以上、第一部では、“朝起きてから夜寝るまでの一日”、“生活している地域”、“世界”、と順を追って、イメージを切り替えながら問いかけを続けた。“唯一の正解がない質問”、“個々人が自分の場合に立ち返って考えざるを得ない質問”に対し、繰り返し自分なりの答えを考えるなかで、生徒は、 “無くなったら困る大切なもの/こと”を手がかりに、自分が生きている毎日の世界を、再整理する作業を進めた。


Ⅲ ジェンダーに関する問いかけ


Wifyで、自分の生活と世界に向けた問いかけの視線を、今度は“性”に向けてみる。出発点は、自分の性である。生徒たちは、自分の男性としての側面をどう考えているだろうか。また自分の女性としての側面を、どう考えているだろうか。


1 男性の意味を問う 


『あなたが男子だとして、考えてください。男子として、無くなったら困る大切なもの/ことは何ですか。』 


  男子の場合は自分自身のことについて、女子の場合は、自分が男子になったつもりで、答えてもらった。


◆男子8名の答え
M1;「誇り、心、忍耐力、思いやり」
M2;「精子」
M3;「女性、自分自身」
M4;「力仕事などの体力的な仕事をする。体をはって、人を守る。何事にも負けない強い意志を持つ。」
M5;「積極的行動、思いやりの心(守る)」
M6;「女、子供を守ること。心身ともに強くあること。心」
M7;「女性、元気な心、女性を守る強さ」
M8;「女性を守ること、たくましさ」


◆女子7名の答え
F1;「筋肉、優しさ、忍耐強さ。」
F2;「勇気、責任感、強さ」
F3;「守るもの、強さ、家族」
F4;「包容力、責任、女性の理解」
F5;「力強さ、かっこよさ、守ってくれる。」
F6;「スポーツ(体を動かすこと)、力、心の広さ(優しさとか)、威厳とか??、友達、目標とする人、笑顔」
F7;「決断力、責任感、健康、はっきりすること、女性」


2 女性の意味を問う
『あなたが女子だとして、考えてください。女子として、無くなったら困る大切なもの/ことは何ですか。』
  男子の場合は、自分が女子になったつもりで、女子の場合は自分自身のことについて、答えてもらった。


◆男子8名の答え
M1;「心、化粧品、風呂、男性との共同性、髪、思いやり、明るさ」
M2;「卵子」
M3;「男性、自分自身」
M4;「まだ完全になくなっていない女性差別に負けないようにする。」
M5;「子どもを産む体、やさしさ」
M6;「やわらかな物腰。包み込むような優しさ」
M7;「男性、男性を癒す優しさ」
M8;「きれいであること、(外見だけでなく、心も)」


◆女子7名の答え
F1;「優しさ、子供を産むこと、子供を育てる、辛抱強さ」
F2;「やさしさ、子供への愛」
F3;「批判する対象」
F4;「自分のことを理解すること(体、心)、異性への理解」
F5;「かわいらしさ、スカート、優しさ」
F6;「笑顔、友達、服、雑誌、音楽、目標とする人、美しいと感じられる心、細やかさ」
F7;「健康、男性、思いやり、発言力」


Ⅳ 生活とジェンダーの意味を相互に学ぶ


ここまでの5つの質問によって、各生徒はまず自分にとって大切なものは何かという視点から、自分の生活を見つめた。さらにジェンダーの視点から、「男性とは何か、男性にとって大切なものは何か」、「女性とは何か、女性にとって大切なものは何か」を考えた。そして、考えた結果をワークシートに書き込んだ。40人の生徒全員が、生活とジェンダーに関して自分の考えを明らかにしたのである。机の間を歩き回り、生徒たちにワークシートを見せてもらったが、一枚として同一のものはなく、全てのワークシートがそれぞれに、それを書いた生徒の生活観/ジェンダー観を反映すると考えられた。合計40枚のワークシートは、生徒たちが、彼ら自身の生活とジェンダーについて更に考え、学ぶための出発点となる。

『皆さんが書いた40枚のワークシートをまとめると、世界に1冊しかない本(テキスト)が出来上がります。本の題名は、「S高校1年A組の生徒が考えた生活とジェンダーの意味」です。私が言っているのは、単に「40枚のワークシートを回収して、ホチキスで留めれば、小冊子が出来上がる」ということではありません。ワークシートに皆さんが書いてくれた言葉は、生活と性を考える重要な手がかりですが、それ以上に大切なのが、ワークシートを書きながら、皆さんが考え、思い巡らした、皆さんの記憶/体験です。今、その作業を終えたばかりですから、皆さんはワークシートに書いたことだけでなく、書かなかったことも含め、いろいろなことを思い、考え続けていると思います。そのような、ワークシートの背後にあり、この瞬間に皆さんの意識に存在している記憶/体験も含め、その40人分全体を一冊の本(テキスト)と考えてください。そのように、文章にイメージや映像が関連付けられ、それがいろいろに重なり合って存在するテキストのことを、ハイパーテキストと言います。ハイパーテキストは、コンピュータ用語として用いられる場合が多く、一般にはマルチメディア技術を活用して、コンピュータ上にハイパーテキストを作ります。しかし、1年4組という生きたハイパーテキストは、皆さん全員がワークシートを持ち、記憶も鮮やかなこの瞬間にしか存在しません。この時限が終われば、皆さんはもとの日常生活に戻って行き、ハイパーテキストも失われてしまいます。それが失われてしまう前に、そのハイパーテキストを読めるだけよみ、そこから学んでみましょう。』 

『これから15分間の間に、隣席の人から始め、できるだけたくさんの皆さんの同級生に、皆さんが書いたワークシートを見せてあげ、またその人のワークシートを見せてもらってください。そして、思いつくままに質問してください。あなたが質問されたら、できる範囲でそれに答えてください。40ページ全て、40人分全てを読むのは難しいかもしれませんが、がんばってください。』

『二つ、注意事項があります。“無くなったら困る大切なこと”を、私たちは普段、そんなに簡単に他の人に教えてあげることはありません。そこには、その人の心の中身、秘密にしておきたいこと、なども入っているかもしれません。ですから第一に、ワークシートを見せ合う作業は慎重に進め、決して無理しないでください。見せたくなさそうな人がいたら、その人の心や考えに配慮しし、無理に見ることだけは、避けてください。第二の注意事項は挨拶です。見せてもらったり、見せてあげたりするときは、握手でも、こんにちは、でも何でもよいので、必ず互いに挨拶をしてください。では、始めです。』

---15分間、クラス全体が騒然となり、交流が続く---



Ⅴ 高校生が受けたいと思っている性教育とは?


『さて、今日の授業で、私は何も具体的な知識を皆さんに教えていません。しかし、皆さんは、きっとワークシートを用いて交流するなかで、皆さん自身や多くの同級生の、“生活や性に関連した物の見方/感じ方”、“心の持ち方”に触れたと思います。今日の経験は、心を大切にした、皆さんに対する参加的な性教育の出発点だと言えます。』
『では今日の経験をもとに、考えてみてください。皆さんが今後さらに受けたい性教育とは、どのようなものですか?』


  ◆男子8名の答え 

M1;「男と女の本音をぶつけ合うような議論とか、知識を与えてもらうだけでなく、底から自分たちが思ったりしたことを自由に発表できるような授業。」 


M2;「性に関する知識はこれまでで多く学んだ。それでも性について、女性がどう思っているかなど全く分らない。性問題について、男女で意見を言い合ったり、分らないことを聞き合ったりすると、いろいろと考えていなかったことなどがわかってくると思う。」 

M3;「きれいごととか、まわりくどいことを除いたリアルな授業。発展途上国などの性問題、または日本での問題。そういうのを見ないと相手とか異性のこととかを本気で理解し合えないと思う。性病の写真を見せられたり、子どもを下ろすのに何万かかるとかを知れば、相手を傷つけたくないって思う。男と女のこと、その問題をしっかり見てこそ、その真理にたどり着けるのだと思う。」 


M4;「男としている理由と、女としている理由を知りたい。また、男としての役目と女としての役目の違いについてなども知りたいと思う。」 


M5;「この問題は結構ひっかかることがある。確かに今、中高生の性行動をよく耳にする。でも大人になったら、子供を作ったりするわけだし。難しい問題だ。しかしこういうことは知れるなら、知っておきたい。教科書に載っていないことを受けたい。」 


M6;「相手(異性)の考え方や能力。身体の違いと、違うことの大切さ、など。」 


M7;「男と女がいかにして仲良く暮らしていくか、ということを考えさせられるような性教育を受けたい。」 


M8;「異性のこと(考え、気持ち)をよく知ること。異性との交流を深めること。」


  ◆女子7名の答え 


F1;「命の大切さを教えてくれる。性のあり方を教えてくれる。」 


F2;「男女はもちろん、一人一人でそれ(一人の人にとっての大切なもの)は違っていて、異性に求めるものも変わってくることが分かった。このことから性教育においてはジェンダーについて学んでみたいと思った。」 


F3;「学校で教えてもらいたいものは特にない。親にいろいろ教えてもらって、あとは自分たちで考えていけばいいと思う。不確かで柔軟な問題を教育とくくることはどうかと思う。」 


F4;「ビデオなどで学習するより、男子女子の意見を交わし合って、考え方の違い・感じ方の違いなどを身を持って異性について考える学習。男性のものの価値観、女性のものの価値観は自分が社会のなかで生きていて、何となくわかってくるけど、独り善がりな考えになりかねなくて、相手について理解する。分かり合うということにはならないから、きちんと相手の方からも意見をもらえる学習。」 


F5;「互いのイメージの違いを差別としてとるのではなく、単なる相違点として認めさせる授業。恋愛って本当はどんなものなのか?(彼氏と男友達の違いって何?)(大昔から恋愛ってあったの?)」 


F6;「男性と女性は違っていて、男性でも女性でも一人一人は違う。それは当たり前のことなんだけど、なかなか認め合うことができないことだと思う。難しいことなのかもしれないけど、一人一人が違うことを確認して率直にそれを当たり前のことにできるようになりたいと思う。」 


F7;「男性と女性は平等であるということ。男性と女性の共通点や相違点を考えること。男性らしさ、女性らしさとは何か。」




Ⅵ 参加型の性教育への感想


あっという間に、初めて出会った1年A組の生徒たちとの45分間が過ぎ去り、終了5分前になった。集中して書き、考え、交流してもらったため、生徒たちはかなり疲れたと考えられる。しかし授業開始時に比較して、どの生徒の表情も緊張が取れ、とても明るく感じられた。まだ書く元気が残っていた生徒たちに、最後の感想を書いてもらった。 


  ◆男女8名の答え 


M1;「なかなか普段の授業では受けられないような内容だった。もっと時間をかけてすれば、もっといろいろなことを考えられたと思う。短時間だったけど、奥は深かった。」 


M4;「今日の授業は通常授業とは違い、のびのびとしていたと思う。今日学んだことが、いつか役に立つ日が来るといいなと思う。」 


M6;「今日は久しぶりに勉強以外のことでよく頭を使って考えた。そのせいで、なかなか「これだ!」という答えは出なかったが、その考えること自体がおもしろかった。」 


M7;「今まで、今日考えたようなことはほとんどなかったし、他の人の意見もたくさん聞くことができたので、良い経験になったと思う。」 


M8;「今まであまり考えてなかったことを考える機会ができてよかった。性教育の見方が変わった。」 


F1;「こういう風な授業の形式は初めてだったので、すごく興味深かった。根本的なところから考えることは意外と難しいものだなと思った。」 


F2;「一人の人にとっての大切なものは、人生においてかけがえのないものであったり、その人の生活を構成しているものであったりした。」 


F7;「すごくおもしろかった。普段考えないような問題で、少し考え込むこともあったけど、改めて自分やその回りを見回せた。クラスの人との見せ合いもよかった。共通することや、「あっ、それも大切だ」と思うようなことがたくさんあり、おもしろかった。また、このような授業を受けたいと思った。」


以上、男子8名(M1~M8)、女子7名(F1~F7)の反応を中心に、授業の流れを事例的に構成し、参加的に行われた問題提起(特に“性”の教育に関連して)の紙上での再現を試みた。ここに示していない他の25名の生徒も、それぞれが極めて個性的で考えさせる反応を示したことを、付け加えておく。


以上 
参考文献


Moriyama, M., Suwa, T., Kabuto, M. & Fukushima, T.(2001):Participatory Assessment of the Environment from Children's Viewpoints: Development of a Method and Its Trial.Tohoku J. Exp. Med. 193(2), 141-151. 


守山正樹 (2002): Wify_生活の中から言葉を育て、生活世界の多様性を学ぶ. pp.1-40. 第1.0版1刷、福岡大学医学部公衆衛生学教室
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