第55巻第4号「厚生の指標」2008年4月 新潟県中越地震で被災した児童による避難生活で体験した出来事の評価 永幡幸司*1、守山正樹*3、鈴木典夫*2、坂本恵*2、金子信也*4 *1福島大学理工学群共生システム理工学類准教授 *2同人文社会学群行政政策学類准教授 *3福岡大学医学部教授 *4福島県立医科大学博士研究員
目的 新潟県中越地震で被災した児童が,避難生活で体験した出来事をどのようにとらえていたのかを明らかにすることを目的とした。 方法 新潟県中越地震の際,全村避難した地域である、旧山古志村の小学生47名(男児24人,女児23人)を対象とし,2次元イメージ展開法と呼ばれるワークショップの手法(避難生活で体験したと考えられる31種類の出来事を害いたラベルの中から,各児童にとって特に印象的な出来事を表すものを10枚以内で選択してもらい,それらを体験の「いやさ」「うれしさ」という観点から評価し,2次元座標平面上に展開することで,生活のイメージマップを作成する)を用いて,児童自身に避難生活を振り返ってもらった。 結果 児童が「避難生活で体験した特に印象的な出来事」として選択したラベルには,学年差,性差はほとんどみられなかった。各児童が作成したマップにおける,各出来事を表すラベルが布置した座標値を基に,出来事ごとのラベルの散布図を作成したところ,それらの布置は,①いやさの評価に関わらず,うれしさが一定の評価であるもの,②いやではないと評価されたものほど,同時に,うれしいと評価されるもの,③いやさの評価とうれしさの評価の間に関係性のみられないものの3通りに分類でき,その中で,特に①については,うれしさの評価が高評価のものと,低評価のものに分類できることがわかった。そして,①のうれしさが高評価のものには,支援物資や励ましの手紙をもらったことが,①のうれしさが低評価のものには,地震による被害に関する出来事が,②には学校に開する出来事と家庭生活に開する出来事が,③には避難行動に関する出来事と避難所での直接的支援活動に関する出来事が,主として分類された。 結論 避難生活中に児童が体験した出来事は,皆がうれしいと評価するもの,皆がうれしくないと評価するもの,うれしさといやさの評価の間に負の相関関係がみられるもの,うれしさといやさの評価の間に相開開係がみられないものの4種類に分類できる。被災児童への支援のうち,物資や手紙の送付は児童にとってうれしい出来事として評価されるが,被災地において児童と直接接するような活動は,児童のニーズにあわなければ,うれしくない活動として評価されてしまう危険性がある。 キーワード 新潟県中越地震,被災児童,避難生活,2次元イメージ展開法,支援活動
新潟県中越地震で被災した児童による 避難生活で体験した出来事の評価 永幡幸司、守山正樹、鈴木典夫、坂本恵、金子信也
I はじめに 2004年10月23日に発生した新潟県中越地震の際,旧山古志村(震災当時は古志郡山古志村であり,2005年4月1日に長岡市へ編入合併された。以下,同地域を村,地域住民を村民)は,村外への道路が寸断され完全に孤立したため,村民全員が長岡市へ避難することを余儀なくされた1)。村民の生活環境は震災前と避難生活とでは大きく異なっており,生活そのものも大幅に異なったものとなった。 では,このような突発的な災害により劇的に変化した生活を,被災した児童はどのようにとらえたのであろうか。このような問いから得られる知見は,被災児童の心のケアを考えるに当たり重要であるのはもちろんのこと,復興計画の立案,今後の被災者(児童)支援のあり方の検討,さらには,防災計画の立案等,様々な場面で利用可能な基礎資料となり得るだろう。 ところで,横尾らが既に指摘しているように児童の災害体験に関する認識は,大人の側からは想像できないようなものである可能性がある2)。そこで,このような問いに対して,児童たちの考えていることをできるだけありのままに答えてもらえるような方策を考える必要があると考えた。 そこで本研究では,後述する2次元イメージ展開法という手法を用いたワークショップにより,児童自身に避難生活を振り返ってもらい,そこで得られた成果を分析することから,児童による避難生活で体験した出来事の評価を把握することを試みた。
Ⅱ 方 法 (1)調査対象地域 今回の研究で調査対象地域としたのは,旧山古志村(現長岡市山古志)である。親戚宅等に避難した一部世帯を除いた,村民の典型的な避難生活は次のようなものであった。震災当夜は,小学校の校庭等の広い場所に避難した,あるいは,自家用車内で過ごした。震災翌日と翌々日にわかれて長岡市内にヘリコプターで移動し,到着順に割り当てられた避難所に入所した。さらに震災11日目には,村内での集落ごとに同じ避難所にまとまった入所となるよう,避難所間の引越しを行った。その後,長岡市内に設置された応急仮設住宅へは,震災49日目から61日目の間に入居した。そして,2005年7月以降,ライフラインの復旧の終わった地域から順次帰村が始まり,2007年12月をもって仮設住宅が解消された。 (2)調査対象者 調査対象とした児童は,長岡市立山古志小学校(旧山古志村立山古志小学校)の児童47名である。その学年と性別の構成を表1に示す。 (3)調査方法 調査は,震災による避難生活中に体験した様々な出来事を,児童たちはどのように感じていたのかについて,2次元イメージ展開法によって児童自身に振り返ってもらう,というものである。 2007年6月6日の午後の授業時間内に,山古志小学校の全校児童に,開校のレクリエーションルーム(小型の体育館的スペース)へ集合してもらい,ワークショップ形式により実施した。調査をワークショップ形式としたのは,調査が児童たちに与える影響を考えた時,例えば熊谷3)が指摘しているように,ワークショップによる児童間での被災体験の共有が,児童の心に安心感と情報の共有をもたらすうえで重要であると考えたからである。 2次元イメージ展開法とは,生活上の様々な出来事を表す言葉を表示したラベルを,対象者が座標軸に従って配列展開し,マップ(展開図)を作成するなかで,対象者が自身の生活を振り返る方法である4)。この方法は,元々,食事指導に関連して開発されたものであるが5),雲仙普賢岳の噴火災害6)と阪神淡路大震災7)の際に,小学生による災害体験の振り返りに用いられている。本調査は,これら2件の先行事例を参考に計画されたものである。 本調査で用いたラベルに表示した,児童が避難生活中に体験したと考えられる出来事をあらわす言葉(キーワード)は,次の2段階の過程により,著者らが選定した。第1段階として,震災後に編さんされた山古志小学校の全校文集8)-10)より,新潟県中越地震とその後の避難生活に係る内容の作文を抽出し,そこに書かれた避難生活中の出来事を列挙した。そしてその中から,3名以上の作文で挙げられた出来事を抽出した。同時に,先行事例6)7)で用いたキーワードの中から,今回の震災においても同様の出来事があったと考えられるものを選別した。次に第2段階として,児童の作文と先行事例から得られたキーワードを,なるべく少ない数で,多くの児童が感じたと思われる震災直後から調査時点までの体験を満遍なく網羅できるようにする,という観点から絞り込み,表2の「出来事」欄に示した31個を選択した。なお,調査時に用いたラベルでは,これらのキーワードを書いたもの以外に,小さな字で「自由に書いてね」とだけ書いたものを5枚配布し,児童が,著者らが選択した出来事以外の出来事を振り返りの対象とすることもできるよう配慮した。 また,ラベルを展開するための座標軸としては,先行事例6)7)にならい,横軸に体験の「いやさ」を,縦軸に体験の「うれしさ」を選択した。この時,横軸は右方向に位置するほどいやな体験であることを意味し,縦軸は上方向に位置するほどうれしい体験であることを意味することとした。 ラベル展開の手順は次のとおりである。まず,キーワードを書いたラベルの中から,各児童が特に印象的に覚えている出来事を示すものを10枚以内で選んでもらう。この際,用意したキーワード以外に,より印象的な出来事がある場合は,「自由に書いてね」と記したラベルに自由に書き込んで良いことを児童に伝えた。次に,選んだラベルの中で,最もいやな体験だったと思う出来事を表すラベルをマップの台紙の横軸上右端に,遂に,最もいやではない体験だったと思う出来事を表すラベルを横樋上左端に配置させる。続いて,残りのラベルを,右にあるものほど,よりいやな体験だったと思う出来事を表すラベルとなるよう,横樋上に配置させる。最後に,それぞれのラベルについて,体験のうれしさの度合いに応じて,上に布置するラベルほど,よりうれしい体験だったと思う出来事を表すものとなるよう展開させる。そして,すべてのラベルの位置が確定したら,糊かセロハンテープでラベルを台紙に固定させた。図1に,児童が作成した避難生活体験のマップの例を示す。 なお,避難生活体験のマップの完成後,児童たちがお互いのマップを見ながら,意見交換をする時間を設けることで,児童間での被災体験の共有が図れるようにした。 (4)分析 まず,それぞれの出来事が児童たちに選ばれた頻度を求めた。そして,出来事の選択に,学年差,性差があるのかを検討するために,χ2検定を行った。なお,調査対象である児童数が少ないため,学年差については,1年生から3年生までの低学年と4年生から6年生までの高学年の2群に分けて検討することとした。この分類法は,震災時に小学生であった群(高学年)と未就学兄であった群(低学年)とも対応している。 次に,各児童が,選択したラベルをマップの座標平面上に布置させた位置を記録した。この時,座標平面上の位置の表し方は次のように定めた。座標平面を横幅「いやさ」方向は10等分,縦幅「うれしさ」方向は5等分に分割して格子をつくった。それぞれの格子には,横輪方向は左端から右に向かってOから9の数を割り当てた。同様に,縦輪方向は下から上に向かってOから4の数を割り当てた。そして,各ラベルの座標平面上の位置は,そのラベルを主として含む格子に割り当てられた縦横両輪方向の数によって,(横輪方向の数,縦輪方向の数)という座標形式で表すことにした。したがって,各ラベルの横輪方向の数が大きいほど,いやな出来事であったことを意味し,縦輪方向の数が大きいほど,うれしい出来事であったであったことを意味することになる。なお,縦輪方向,あるいは横軸方向で,2つの格子の中央付近に布置され,どちらの格子に主として含まれているのか判断に迷うラベルが少数あったが,そのような場合は,例えば1と2の間であれば1.5というように,2つの格子に割り当てられた軸方向の数の平均によって表すことにした。 そして,ラベルを展開するための座標軸として「いやさ」(横軸)と「うれしさ」(縦軸)を選択したことの妥当性について検討するため,各児童の作成したマップにおける,ラベルの縦横両座標値の相関係数を算出した。また,各児童の作成したマップにおける任意の2枚のラベルについて,「いやさ」と「うれしさ」の評価の関係について検討した。 最後に,各々の出来事が児童たちにどのように評価されているのかを検討するため,各児童のマップにおける各ラベルの座標値を用いて,出来事ごとのラベルの散布図を作成し,ラベルの分布の傾向を分類した。分類に際し,ラベルの座標値の平均,標準偏差,相関係数を指標とした。
Ⅲ 結 果 それぞれの出来事が,児童たちに印象的に覚えている体験として選択された頻度について表2に示し,各々の出来事の選択率に学年差があるかについて,χ2検定を行った結果も合わせて示した。選択率に学年差がみられたのは,高学年が有意に多く選択した「車で生活した」(p<0.01),「色々なイベントがあった」(p<0.05),「励ましの手紙をもらった」(p<0.05),「道路が通れなくなった」(p<0.05)の4項目と,低学年が有意に多く選択した「食器が壊れた」(p<0.05)の1項目のみであった。また,性差がみられたのは,男子が有意に多く選択した「友達と近くなった」(p<0.05)のみであった。このように,児童たちにとって避難生活中に体験した出来事の中でも特に印象的なものは,学年,性別にはあまり関わらず,基本的には似通ったものであった。そこで,以降では,児童全体を一まとめとして扱うこととする。 各児童の作成したマップにおける,ラベルの縦横面座標値の相関係数は,表3のような分布を示した。大雑把にみれば相関係数-0.7以下の強い負の相関を示すマップが77%を占めていることがわかる。しかし,詳細にみれば,相関係数が-1.0~-0.9未満のマップより,-0.9~-0.8未満のマップの方が多い。また,相関係数の絶対値が0.5以下という相関の低いマップが,全体の11%を占めていることがわかる。 そして,各児童の作成したマップにおける任意の2枚のラベルに着目し,「いやさ」と「うれしさ」の評価の関係をみると,全2,074組のうち155組(7.5%)のラベルの組み合わせが,横軸においてよりいやであると評価されると同時に,縦軸においてよりうれしいと評価されるという,「いやさ」と「うれしさ」で逆転的な評価をされていることがわかった。 出来事ごとのラベルの散布図を作成したところ,それらの布置の傾向は大別すると次の3通りに分類できた。①横軸と平行に布置するもの:いやさの評価に関わらず,うれしさが一定の評価であるもの(以下,横軸平行)。②縦座標と横座標との間に負の相関があるもの:いやではないと評価したものほど,同時に,うれしいと評価するもの(以下,負の相関)。③縦座標と横座標との間に相関のないもの:いやさの評価とうれしさの評価の間に関係性がみられないもの(以下,相関ない。そして,これらのうち「横軸平行」の傾向がみられるものは,うれしさの評価が「高評価」のものと「低評価」のものに分類できた。 そこで,ラベルの座標値を用いて,以下の手順で分類を行った。 まず,各散布図における他のラベルから極端に離れて布置している例外的なラベルを除去した。具体的な手順は次のとおりである(以下,各散布図における個々のラベルを示す添え字をj(i=1,2,…,n:ただし,nは各散布図におけるラベルの総枚数と一致する))。まず,各散布図におけるラベルの布置の重心G求める。次に重心Gと個々のラベルとの間の距離Ljを求め,その平均Lと,標準偏差σLを求める。そして,Li>L十2σLであるようなラベルiを除外することにした。 次に,各ラベルの縦幅座標値の標準偏差を求め,その値が0.5未満のものを「横幅平行」と分類することにした。「横幅平行」と分類されたものについては,さらに,各ラベルの縦幅座標値の平均値により,その値が2.5未満である「低評価」と,2.5以上である「高評価」に分類した。 そして,「横軸平行」に分類されなかったものについて,各ラベルの縦幅の座標値と横幅の座標値との間の相関係数を求め,その値が-0.7以下の負の強い相関を持つものを「強い負の相関」,相関係数が-0.5~-0.7の間の弱い相関を持つものを「弱い負の相関」,それ以外を「相関なし」と分類した。 以上の手順により散布図を分類した結果を表4に示す。うれしくない出来事であったことを意味する「横軸平行低評価」には,主として,地震による被害に関する出来事が分類された。うれしい出来事であったことを意味する「横軸平行高評価」には,「支援物資をもらった」と「励ましの手紙をもらった」という外からの支援に関するものと,「さいの神(小正月に行われる無病息災を願う年中行事)に参加した」「友達と近くなった」が分類された。うれしさの評価といやさの評価の間に「負の相関」があるものには,「学校に行けなかった」(強い相関)と「坂之上小に通った」(弱い相関)という学校に関する出来事と,「家族と離ればなれになった」(強い相関)と「仮設の家が狭い」(弱い相関)という家庭生活に関するものが分類された。そして,うれしさといやさの間に「相関なし」とされるものには,避難行動に関するものが多く分類された。また,「ボランティアとの交流をした(遊んだ)」と「色々なイペントがあった」という避難所等での直接的支援活動に関する出来事2つも,ここに分類された。 IV 考 察 まず,ラベルを展開するための座標軸として,「いやさ」と「うれしさ」を選択したことの妥当性について検討する。 もし,「いやさ」と「うれしさ」が完全に1つの尺度の対極である概念だとすると,各児童の作成したマップにおける,ラベルの縦横面座標値の相関係数は-1となるはずである。しかしながら,表3で示したように,実際のマップにおいては必ずしもそのようにはなっていなかった。 また,「いやさ」と「うれしさ」が完全に対極の概念であれば,各児童の作成したマップごとの任意の2枚のラベルに着目すると,常に「いやさ」の評価が高い方のラベルが「うれしさ」の評価は低くなるはずである。この点についても,結果で述べたとおり,実際のマップでは必ずしもそのようにはなっていない。 これらの結果は,大まかにみれば「いやさ」と「うれしさ」は対極的な概念であるが,詳細にみればいやであるけどうれしいという両面価値的な出来事も一定数存在していたということを意味している。したがって,児童が各出来事に対して抱いた感想をより正確に把握するためには,「いやさ」と「うれしさ」を別な次元で捉える今回の選択は,妥当であったと考える。 次に,出来事ごとの散布図を作成した際に、「横軸平行」と分類されるような散布図が出現した理由について検討する。 調査方法で述べたとおり,マップ作成時の横軸方向にラベルを展開させる際に,各児童には選択したラベルの中で最もいやな体験と最もいやではなかった体験を軸の両端に配置するように指示している。この指示は,横軸方向のラベルの展開は,各人にとってのそれぞれの出来事の相対的な「いやさ」に基づいて行われていることを意味する。すなわち,いやな出来事ばかりを選んだ児童であっても,いやな出来事からあまりいやではない出来事まで幅広く選んだ児童であっても,さらにはいやではない出来事ばかりを選んだ児童であっても,各人が選んだ出来事の中で相対的にみたときに最もいやなものが右端に,最もいやでないものが左端に配置され,他のラベルはその間に「いやさ」の順に布置されることになる。 それに対し,縦軸方向については,ラベルごとにその出来事の「うれしさ」に応じて,独立に展開される。したがって,うれしい出来事ばかりを選んだ児童はすべてを縦軸方向上方にラベルを配置することも可能であるし,逆に,うれしくない出来事ばかり選んだ児童はすべてを縦軸方向下方に配置することも可能である。実際,児童の作成したマップを見ると,大半のラベルを上方に布置したものもいるし,逆に大半のラベルを下方に布置したものもいる。このように,「うれしさ」の評価は絶対的な評価に基づいて行われている。 ラベルの展開の仕方に縦輪方向と横輪方向でこのような違いがあったことが,「横輪平行」という分類ができてしまった原因と考えられる。 このことを踏まえて,各出来事をあらわすラベルの散布図の分類結果を考察する。 地震による被害に関する出来事が「横輪平行低評価」に分類されたということは,それらの出来事が,相対的な「いやさ」という観点からは児童によって評価がばらつくものの,絶対的な「うれしさ」という観点からは,大半の児童が共通してうれしくない出来事だと評価したことを意味している。これは,両輪の評価方法の違いを考えれば,妥当な結果であるといえよう。 次に,震災への支援に関する出来事に着目する。「支援物資をもらった」と・「励ましの手紙をもらった」は「横輪平行高評価」に分類されており,これらの出来事を印象的体験として選んだ児童にとって共通してうれしい出来事であったことがわかる。これらに対し,Fボランティアとの交流をした(遊んだ)」と「色々なイペントがあった」は「相関なし」となり,児童によって評価の分かれる出来事であったことを意味するグループに分類され,「色々な地域と交流した」は「横輪平行低評価」,すなわち,児童にとってうれしくない出来事に分類された。 ここで,児童にとってうれしい出来事に分類された2つの出来事は,物資であれ手紙であれ,形として残る支援であり,児童それぞれのタイミングとペースで,その支援のありがたさを感じ取ることができるようなものである。それに対し,他の支援に関する出来事はどれも,児童と支援者が一時の時間を共有する形の支援であり,支後者側の都合で催される活動である。そのため,個々の児童にとってニーズにあった支援活動だと感じられた場合は高評価となるが,そうでなければ低評価となったのであろう。このように,被災地において児童と直接接するような支援活動は,一歩間違えば,児童にとってはうれしくない活動と評価されてしまう危険性があることを,支後者側は十分に認識しておく必要がある。 また,避難行動に関する出来事は,地震にあったことによってせざるを得なかった行動という意味では,児童にとってうれしくない体験であったのだろう。しかし同時に,そのような行動をしたことで,行動前よりは安心,安全な状況になったという意味では,うれしい側の評価をすることもできる体験であったとも考えられる。このように,避難行動に関する出来事をどのように捉えるかによって縦軸側の評価が異なってくるため,それらの出来事に関するラベルの分布は,「相関なし」に分類されるような形状となったと考えられる。
V おわりに 児童が特に印象的に感じている出来事は,学年,性別に関わらず,おおむね同様のものであった。そして,避難生活中に体験された出来事は,皆がうれしくないと評価する出来事,皆がうれしいと評価する出来事,うれしさといやさの評価の間に負の相関関係がみられる出来事,うれしさといやさの評価の間に相関関係がみられない出来事の4種類に分類できることがわかった。
謝 辞 本研究にご協力いただいた,長岡市立山古志小学校の皆様に対して,深甚なる謝意を表します。本研究は,科学研究費補助金(基盤研究(B)17310089)の補助を受けた。
文 献 1)新潟日報社,BSN新潟放送.10.23新潟県中越地震1年の記録.新潟:新潟日報社,2005 ; 16. 2)横尾美智代,守山正樹.噴火災害で被災した児童における環境認識の構造的把握一社会・自然環境変化に対する児童の視点を記述的表現から探る試みー.日本社会精神医学会雑誌1998 ; 6 (2):185-96. 3)熊谷昌彦.3.セッション1「こまったこと,たすかったこと」.自然災害科学2003 ; 22(1):7-12. 4)文部科学省スポーツ青少年局.展開例11,指導資科からの出発.東京:文部科学省編,心の健康と生活習慣に関する指導,2003 ; 82-91. 5)守山正樹,松原伸一.食のイメージ・マッピングによる栄養教育場面での思考と対話の支援.栄養学雑誌1996 ; 54 : 47-57. 6)横尾美智代,守山正樹.私のくらしとふんか一雲仙普賢岳の噴火災害を体験した小学生の気持ちー.長崎:長崎大学医学部衛生学教室,1996. 7)守山正樹,横尾美智代.阪神淡路大震災から感じたこと考えたこと神戸大学発達科学部附属明石小学校2・4・6年生の場合.長崎:長崎大学医学部衛生学教室,1996. 8)山古志村立山古志小学校編.全校文集ふきのとう第5集.新潟:山古志村立山古志小学校,2005. 9)長岡市立山古志小学校編.全校文集ふきのとう第6集.新潟:長岡市立山古志小学校,2006. 10)長岡市立山古志小学校編.全校文集ふきのとう第7集.新潟:長岡市立山古志小学校,2007. |