d 放射能と健康を語る


放射線・放射能への思い.受け止めを共有するには?

2012年11月17日、第16回 日本健康福祉政策学会、ポスター発表

0.始めに

 私たちは、通常それほど意見の食い違いを気にせずに暮しています。
 しかし、2011年 3月11日のような大災害が起き、生活が大きく影響されると、考え方の違いを無視するわけにはいかない状況が現れます。特に福島第一原子力発電所の事故の結果拡がった放射能汚染については、人々の間に見解の違いが著しく、不安の現状や向き合い方が多様です。疫学的なエビデンスがないからといって、一律に不安を否定することはできないし、してはいけないと考えます。不安を否定・放置するのではなく、まず不安を可視化し、不安に向き合い、受け止めることが大切です。
 不安の可視化は、これまでも私の重要な探求テーマでしたが、特に2011年3月以来、不安に向き合い、イメージマップなど人々の不安を可視化する枠組みを開発し、それを用いて不安を受け止めるアクションリサーチを行って来ました。これまでに開発した枠組みを振り返り、今後の方向性を考えます。

1.放射能(原発事故)を被災下の生活変化の一つとして位置付ける


(2011年5月に宮城県名取市のS大学で、休み明けの安否確認の時間に試行したマップです。) 

 生活変化の要素を、XY座標に位置付ける二次元イメージ展開法の試みです。

 「生活変化」への対象者の気持ちを表現する言葉として、X軸は「いや」、Y軸は「うれしい」を選びました。

 地震・津波・原発事故と災害が複合し、被災から2カ月で記憶が生々しい時期にワークシートを設計したため、例示要素数は37と多数になりました。









2.放射線量への判断を可視化する
(2011年6月事例的試行)

 横軸は放射線量、縦軸は個人が取る行動を9段階で示しました。

 横軸1.00μSv/hは、放射線管理区域の制限値(0.6μSv/h)よりも高く、放射線管理区域の感覚からは「何らかの心配を伴った判断」が考えられます。
 しかし原発事故後、文部科学省2011年6月の通達では「屋外3.8μSv/hを越えない学校は、校舎・校庭などを平常通り利用しても差し支えない」とされました。
この説明を受け入れるなら、それより遥かに低値の1.00μSv/hに対しては「何も心配しない」との判断がなされることになります。
 しかし、私たちは本当にそのような判断を受け入れて、物を考えているのでしょうか。一人ひとりにこのマップに個人的な判断を記入してもらい、判断の実際を交流の中で振り返り、よりよい判断とは何かを考えます。






3.放射線下の生活変化を振り返る
 3月11日を起点に、それ以後の生活をそれ以前と比較し、変化を意識化するためのマップを試作しました。

 生活項目は水や食物の摂取、移動、生活、情報など7項目を選んでいます。(2011年7月に事例的に試行)







4. 放射線への.  心配を顔スケール.  で可視化する

(2011年8月に事例的に試行) 
 生活の場面別に放射線への心配を振り返るマップを試作しました。

 生活の場面は福島での事例的な聞き取り調査を元に、水や食物の摂取から外出、移動まで含め13場面を設定しました。
















5. 原発事故を想定して対処行動.を可視化する

(2011年9月に事例的に試行)

 「身近な処にある原子力発電所で重大な事故が起こった時、どのように行動するか」との課題を考え、取り得る行動連鎖を可視化することを、試みました。

 先の行動連鎖図は、最寄りの原発から50Kmほどのところに立地している大学(福岡県内)の学生が作成したものです。

 福岡でも多くの学生は危機を感じていますが、経験が少ないために、福島の現実とはやや異なる捉え方をしているようです。


















6.  触知マップで放射線下の生活認識を可視化する
(2011年8月に福島県郡山市で、盲ろう者友の会の皆さんと、この触知マップを試行しました。) 

 感覚障害の有無に関わらずに、放射線下での生活認識を可視化するために、触覚ワークによる2次元イメージ展開法を行いました。

 触覚ピース(生活要素をバランス良く選択)として、家・布団・サンダル・牛乳・(飲料水)・トマト・魚・雨・(風)・(靴)・服を設定しました。






7.まとめ

 本アクションリサーチでは、放射線への思いを受け止め、可視化するための枠組みを試作し、試作と試行を通して、思いを受け止めることの意味を探りました。
 6種類の枠組みのうち、1は2011年5月に名取市のある大学で、5は2011年9月に福岡市のある大学で、学生を対象に試行を行いました。また6は、2011年8月に郡山市で視覚と聴覚の重複障害者やその支援者を対象に、ワークショップを行いました。2、3、4については、福島市、仙台市、福岡市で事例的な試行を試みています。
 イメージマップの手法は、何が正しいかを判定するものではありません。“どのような思いを持っているか”、“何をどのように心配しているのか”を可視化・意識化し、一人で悩むのではなく、思いを共有化・公共化することを目指しています。
 イメージマップを作製することで、悩みが無くなるわけではありません。また心配を乗り越え、安心が得られるわけでもありません。しかし、何を悩んでいるのか、安心な状態とはどうなることなのかを、皆で考えることができます。
共に考えることは、一人ひとりが孤独の中で心配する状態とは、異なります。心配、悩みを少しでも共有する中で、一歩前に進むことができます。
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